更年期は閉経する前の5年間と閉経してからの5年間、合わせて10年間のことを言います。一般的には50代が更年期に当たるのですが、稀に40歳未満や30歳未満でも閉経を迎える「早期閉経」や、閉経に近い状態になる「ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群」という病気になる方がいます。これらの病気によって、更年期症状が出たり、妊娠への道が険しいものになることがあります。
いつ、誰がなるかは予測はできません。完全に閉経してしまうと、不妊の状態になるため、できるだけ早く受診し、適切な治療を受けることが大切です。
この記事では、
- 早期閉経とは
- 早発卵巣不全の妊娠率
- 症状
- 治療法
について、ひとつずつ詳しくお話ししてきたいと思います。
早期閉経とは?
早期閉経の説明をする前に、早発卵巣不全(POI)という病気をご存知でしょうか?
この病気は、40歳未満で生理が来なくなった状態をいいます。発症する頻度は、40歳までで1%、30歳までで0.1%になっています。
遺伝的な要因や、環境的(ウイルス感染や化学療法など)・免疫的要因(橋本病などの自己免疫疾患)が原因になりますが、原因不明の場合も多いです。
そして、早発卵巣不全には2つの状態があり、1つが早期閉経(早発閉経)、もう1つがゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群と言います。
◼︎早期閉経(早発閉経)
40歳未満で卵胞(卵子の元)がなくなり、自然閉経(生理の永久停止)を迎えた状態です。
◼︎ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群
卵巣に卵胞があるにもかかわらず、ホルモン的に閉経と同じ状態になり生理がこない状態です。
ただ、この2つの状態を区別することは難しく、また、早期閉経と早発卵巣不全も同じ意味で使われることもあり、定義があいまいな部分があります。
そのため、自然閉経を迎えた早期閉経なら妊娠は不可能ですが、治療によって卵巣機能が回復し排卵できれば、妊娠に結びつくことがごく稀にあります。
その確率を上げるためにも、40歳未満でこれまでにあった生理が3〜6ヶ月ない場合には早めに婦人科を受診しましょう。診断には血液検査や超音波検査などが必要になります。
早発卵巣不全の妊娠への影響は?
早発卵巣不全の生涯にわたる自然妊娠率は5〜10%といわれています。
できるだけ早期に適切な治療を受けることが望まれます。
実際のケースを見てみましょう。
◼︎ケース1
20代前半で早発卵巣不全を発症。27歳から妊娠に向けて治療を始め、35歳で人工授精によって妊娠し、無事に出産。
◼︎ケース2
30代半ばで早発卵巣不全を発症し、治療を開始。36歳で人工授精によって妊娠し無事に出産。
◼︎ケース3
10代後半で早発卵巣不全を発症し、23歳から妊娠に向けて治療を開始。29歳で人工授精によって妊娠し無事に出産
ケース1の場合、ホルモン補充療法を開始して妊娠するまでの期間が7年余り必要で、その間に確認できた排卵回数は5回でした。さらに、妊娠できた最後の排卵とその前の排卵との間隔は約3年間空いていたため、ご本人の努力と治療の効果が実った非常に奇跡的な妊娠と言えます。ケース3でも、治療から妊娠まで約6年間の時間を必要としています。
このように早期卵巣不全は、ホルモン補充療法や人工授精などの治療を受けることで、妊娠・出産に結びつく可能性があります。ただし、それは奇跡的な確率であることを知っておいてください。
特に治療をしても卵巣機能が回復しない早期閉経の場合には、妊娠に必要な卵子がないため、妊娠が望めない状態になります。
早発卵巣不全の症状は?
早発卵巣不全は、卵巣の機能が低下するため、更年期症状が出る場合があります。どんな症状が出るか見ていきましょう。
◼︎生理不順
排卵がうまくいかないため、生理期間が変化したり、周期が乱れるほか、生理以外で性器出血が見られたり、生理の量が増減するなどの症状が見られるようになります。
◼︎無月経
3ヶ月以上生理が来ない状態をいいます。
◼︎不妊
避妊していない状態で夫婦生活を営んで、1年以上妊娠しない状態をいいます。排卵がなければ、妊娠することができないため、不妊の状態になります。
◼︎更年期症状
卵巣の機能が低下すると、エストロゲンの分泌が低下するため、自律神経やからだの各器官に影響が及びます。症状としては、のぼせ、ほてり、ホットフラッシュ、めまい、動悸、肩や腰のこりや痛み、頭痛、イライラ、情緒不安定などが起きることがあります。これらの症状が日常生活に影響を及ぼすようになった状態を更年期障害と呼びます。
また、早発卵巣不全によって女性ホルモンが低下している状態が長引けば、閉経と同じ状態となるため、閉経を機に起こる、下記のようなさまざまな症状を発症するリスクが高くなります。
◼︎肌や髪の乾燥感
エストロゲンは肌のハリやツヤを保つ働きがあるため、エストロゲンの低下によって肌の乾燥感を招きます。
◼︎骨粗鬆症
骨はしなやかさを保つために、内部で破壊(骨吸収)と再生(骨形成)を繰り返しています。エストロゲンは、骨形成を進めて骨吸収を抑える作用があるため、早発卵巣不全によってエストロゲンが減ると、骨密度が低下する原因になります。関節痛や、ちょっとしたことで骨折しやすくなります。
◼︎性交痛
エストロゲンの低下は、膣内の潤いも低下させ、乾燥しやすくなります。膣内の乾燥は、性交痛の原因にもなります。
◼︎心筋梗塞、脳梗塞など
エストロゲンが欠乏している状態が続くと、心臓や脳の病気のリスクが上がるため、命に関わります。妊娠を希望しない場合にも、ホルモン補充療法が必要になります。
治療法は?
妊娠を希望する場合、ホルモン治療が行われます。
女性ホルモンの1つ、エストロゲンを補充することで、卵巣刺激ホルモン(FSH)を低下させ、卵胞の発育を促し、排卵が再開するように助けます。また、ゴナドトロピン療法やGnRHアゴニスト療法(偽閉経療法)で、卵巣を過剰に刺激している状態を緩め、排卵誘発剤で排卵を促します。
早発卵巣不全の原因が、自己免疫疾患などの病気の場合はそちらの治療が必要になります。
最近では、卵巣を体外に取り出して、卵巣の中にある育つ前の卵胞を体外で活性化させてから体内に戻すという治療を行っている病院もあります。
妊娠の希望がない場合にも、閉経による影響が若いうちから長期間続くことで骨粗鬆症や命に関わる病気のリスクが高くなるため、女性ホルモンの補充療法が50歳前後まで必要になります。
【まとめ】
通常、50代に来るはずの閉経ですが、30〜40代や早い方は20代に閉経と同じ状態になることがあります。完全に閉経してしまえば、排卵が起こらず不妊の状態になってしまいます。さらに更年期症状が出たり、命に関わる病気を発症するリスクが高くなります。
これらの状態を防ぐためにも、生理が不順だったり、来なかったり、更年期のような症状が出るようなことがあれば早めに婦人科を受診するようにしましょう。また、特に自覚症状がない場合も1年に1回は婦人科を受診することをおすすめします。
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