どうして人間だけ出産が大変なのか?

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どうして人間だけ出産が大変なのか??

 

今回は、出産について考えてみます。

出産は安全?

あらゆる動物のなかで、
人間の出産はものすごく不思議で特殊です。

出産は、安全ではない。

「出産は痛い」
「出産は大変」

こんな言葉を聞いたことがあると思います。

よく考えてみると不思議です。
犬や猫も出産は自力でする。
わりとするっと産む。

なのにどうして人間は、
あんなに出産が大変なのでしょうか?

 

「出産は命がけである」
そのことは、妊婦の死亡率を見るとわかります。

日本最古である1899年のデータによると、出産10万人のうち409人もの方が亡くなっています。

それが2013年になると、ゼロにはなっていないものの3,4人にまで減っています。

ものすごく減っている。
これは明らかに医学の力といえるでしょう。

 

しかしこれはあくまで日本の話。

医学の恩恵を受けられない地域では、
いまだに妊婦死亡率は高いのです。

アフリカのサヘル以南では、
出産による死亡者が16人に1人という、
とんでもない状況になっています。

平安時代ごろの日本のある書物には、
10人に1人が亡くなるというようなことが書かれています。

おおげさな表現だと思われていますが、
アフリカの状況を考えるとあながち嘘とも言えません。

 

現代の日本にいるぼくらはどこかで、
「出産は安全なもの」のように感じているかもしれません。

出産時の死亡事故が騒がれますが、これは医療の恩恵を受けているからに他ならないのです。

 

本来、人間の出産はこんなにも危険だった。

このことを知っておいてほしいのです。

 

そしていまでも、
出産は決して安全なものではないのです。

「野良妊婦」なんて言葉があり、
検診を全然受けない妊婦さんがいらっしゃいますが……

絶対にダメ!

検診はしっかり受けてくださいね!

 

男女で骨盤が違うのは、人間だけ

妊娠・出産を考える上で大切な骨があります。

それは「骨盤」です。

骨盤はすごく不思議な骨で、
男女で骨盤が違うのは人間だけです。

人間の男女でいちばん形が異なっている骨が骨盤であり、骨盤をみれば性別がわかるくらいなのです。

 

女性の骨盤(写真)


男性の骨盤(写真)


女性の骨盤のほうが、
真ん中の空洞が大きいですよね?

これは、妊娠の時に赤ちゃんを支えやすいように、出産の時に赤ちゃんが通りやすいように、こういう形になっています。

 

骨盤が性別によってこれほど違うのは人間だけ」

そう言っても過言ではありません。
他のほとんどの動物は、骨盤の男女差がないのです。

すごく不思議なことだと思いませんか?
なぜ人間は、男女で骨盤の差があるのでしょうか?

馬や犬など四本足で歩く動物は、
おなかの中の赤ちゃんを骨盤で支えてはいません。

しかし人間は二足歩行なので、
赤ちゃんの重みを骨盤で支える必要があるのです。

 

もうひとつ、
「人間の頭が大きくなった」ことがあります。

人間は脳が大きくなったことで、出産の時に頭がつっかえるようになってしまった。
だから、男女による骨盤の変化が起こったのです。

霊長類の仲間であるサルでも、
人間ほどに性差がない理由は、頭の大きさです。

 

それともうひとつ、
「ひとりで出産をする」ということは現代では考えにくいということがあります。

人間以外、犬も、サルも、鶏も。
みんなひとりで、出産し、卵を産みます。


命をつないでいくのが、生物の本能。

なのにどうして人間だけが、
本能に関わる「出産」をひとりで行うことができなくなったのでしょうか?

どうして、16人に1人、
10人に1人ものひとが、
命を落とすようなことになったのでしょうか。

 

人類の脳の大きさ、その発達

人類は脳を大きくした。
人間の脳は発達した。

そのために、
人間の頭は大きくなっていきました。

そのおかげで人間は、
いまのように複雑なことを考えられるようになりました。


脳の大きさは、

  • チンパンジー 350ml
  • 350万年前の猿人(アウストラロピテクス) 375ml
  • 190万年前の原人(ホモ・ハビリス)750ml(旧石器が使えた)
  • 150万年前のホモ・エレクトゥス 950ml(火や言葉を使えるようになった)
  • 20万年前~の現代人(ホモ・サピエンス)1500ml

こんな風に、どんどん大きくなっていきました。


頭が大きくなっていくと、
出産の時に頭が産道につかえるようになります。

人類は、進化とともに難産になっていったのです。

そのため、
少しでも出産しやすくなるよう、
変化していったのが骨盤でした。

 

実は、赤ちゃんもすごく大変!

他の動物の頭蓋骨はかたまっているのに、人間の赤ちゃんの頭蓋骨はかたまっていません。

新生児はいくつもの骨が膜によってつながっており、
頭を変形させながら生まれてきます。

赤ちゃんの頭の形は、
出産時の状況、産道を通過する時の頭の向きで変わります。

吸引されれば、頭がのびちゃう!

帝王切開の場合、
赤ちゃんの頭の形はゆがみのない卵円形になります。


それでも、出産は一大事!

人間の出産に伴う死亡率の高さは、
他の生物の比ではありません。

もしも頭が大きくなって、
死亡率が高くなるだけだったら、
人類は絶滅していたかもしれません。

だけど生き残って、
世界の人口が70億人を超えるほどになった。

ということは人間にとって、
出産が大変になること以上に、脳が大きくなることが大きなメリットだったと言えるでしょう。

 

「わかちあいの心」が人類を進化させた

脳の発達とともに、人類が得たもの。
それは「わかちあいの心」です。

進化は複雑。

どうして人類は、
脳を発達させていったのでしょう?

 

脳が発達して、
道具が使えるようになり、
火が使えるようになり、
人間は言葉が話せるようになっていきました。

現代人の一番の特徴は「心」

思い、考え、悩み、悲しみ、喜び……。

身体的な変化はもちろん、
それ以上に「心」に特徴があるのです。

おしゃれをしたり、
芸術を生み出したり、
音楽を楽しんだり、
観念や象徴的な思考ができるようにもなりました。

それが、現代の人類の特徴です。

そして、
脳の発達によって得た最初の心のひとつは「わかちあい」だと言われています。


「どんな文化でも人間は、わかちあう環境で育ちます。わかちあいの精神が自然に身につき実行できます。児童心理学の研究から次のようなことが分かっています。人間の乳児の最初の行動のひとつは、物を拾って口の中に入れることです。
次の行動は拾ったものを他のひとにあげることです。」

(『ヒューマン』より抜粋 トロント大学リチャード・リー名誉教授の言葉)

 

生まれながらに「わかちあいの心」が備わってるとは、なんてすてきなのでしょう。

頭が大きくなって、
難産になっていく人類を救ったのも、
この「わかちあいの心」です。

 

ひとりで出産ができない動物は、
人間だけ。

脳が発達して頭が大きくなったせいで、
ひとりで出産ができなくなったけれど。

脳の発達で「わかちあい」ができるようになったことで、
難産に立ち向かうことができたのです。

逆に「難産」があったからこそ、
人類が進化したとも言われています。

 

ひとが助け合う理由は「難産」にあった

ひとは一人では出産できない。

すべての動物は、ひとりで出産をします。
自分で子を産み落とします。

でも、ひとはそれができない。
赤ちゃんは「取り上げる」と言いますよね。


赤ちゃんを産むスタイルは、さまざまです。

近代に入って分娩台に乗るようになりましたが……

 

それまでは、
天井からぶらさがったひもにしがみついて出産したり、
横を向いたり、四つん這いになったり、
立ったままだったりが普通でした。

最近になってアクティブバースといって、
自由に自分の産みやすい姿勢で産むことが、
少しずつ見直されてきています。

ですがどんな格好になっても、
ひとは自分で子どもをつかんで、
産道からひっぱり出すことなんてできません。

中には、
ひっぱってもらわなくても、
スルッと出産できるひともいます。

ですがほとんどのひとは、
出産時、誰かに手伝ってもらうことが必要です。

 

いのちをつないでいく出産。

「ひとの助けが必要になったから、ひとの助け合いが始まった」
という説が、人類学者のカレン・ローゼンバーグ博士によって唱えられています。


「出産時に女性が不安になるのは、ヒトが社会的背景の中で出産を進化させたことを考えると、当然なのです。

ヒトは長いあいだ出産時に、自分の母親、姉妹、友人たちから離れるなんてことはありませんでした。女性が出産時に誰かに付き添って欲しいと思う理由がそこにあります。私たちはそのような状態で長い歳月を過ごしてきたのです。

赤ん坊の世話をする母親にはいつも助けがあります。自分ひとりの手で赤ん坊を運ぶ必要はありません。おばあさんやおばさん、おじさん、お父さんがこどもの世話を手伝ってくれます。

ほかの動物の場合、母親だけが赤ん坊の世話をするのに対して、私たちは個人よりも集団で赤ん坊の世話をするという特徴があるのです。

(『ヒューマン』より抜粋 カレン・ローゼンバーグ博士の言葉)


ひとは一人で出産ができない。
だからこそ、助け合うようになった。

背景を知れば知るほど、
とても自然なことのようにも思えてきますね。

 

「母親を孤独にしない」その大切さ

考えてみると、
不思議なことに気づきます。

長い、長い間。
それこそ、人間ホモ・サピエンスが誕生してから20万年もの間、ずっとお互いに助け合いながら出産、育児をしてきたのが人間です。

ホモ・サピエンス以前の人類もそうだった可能性が高く、数百万年前にわたり、人間はお互いに助けあってきました。


ですが……

いまはどうでしょうか?

 

いまの日本は出産こそ病院や助産院でひとの手助けがありますが、
退院した途端、孤独な子育てに追い込まれてしまいます。

もちろん実家に里帰りができたり、
近くに支えてくれる親族がいるひとはしあわせですが……。

少なくないひとが、
産後、孤独な育児に追い込まれていることは事実です。

 

核家族というのは、
実は長い20万年の人間の歴史の中で、
本当にごくごく短い近代になって成立しました。

本来の人間の、まわりに支えられて、安心を感じながら行ってきた出産・育児が、あまりにも孤独なものに変わってしまったのです。

それが虐待や育児放棄、
といった問題につながっている。
そんな気がしてなりません。

 

これは、お母さんだけの問題なのでしょうか。
こどもと親だけの問題なのでしょうか。

その関係だけの問題ではないような気がしています。

 

この問題を、赤ちゃんをのぞむひとには、ぜひ知っておいてほしいのです。
↓  ↓  ↓
『母性本能とは神話である。』

 

赤ちゃんをのぞんで、のぞんで。

一生懸命に治療をして、
ようやく授かって出産しても、
赤ちゃんに愛情を感じられないことだって起きるのです。

そして、
これは珍しいことでもなんでもないのです。


だからこそ、まわりのサポートが本当に大切。

 

ひとが常にまわりの支えを受けながら、
そしてまわりを支えながら、
出産・育児をしてきた歴史があるからこそ。

 

現代の日本にはこのことが、
とても必要とされているのではないでしょうか。